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JAPAN MEDIA ARTS FESTIVAL

海外メディア芸術祭等参加事業日本のメディア芸術を、世界へ。

上映プログラム

Award-winning Program 2016


各部門の受賞作品を中心に収録。時代を映し出す文化庁メディア芸術祭のトレンドをアーカイブします。


Rhizome
Rhizome

Boris LABBÉ(フランス)

第19回 アニメーション部門 大賞 11分25秒
短編アニメーション

圧倒的な緻密さと極端な構図で展開される短編アニメーション作品。最小単位から無限に生成される世界は宇宙そのものであり、変容を続けるすべての要素が相関し、影響しあっている。タイトルは、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神科医フェリックス・ガタリの共著『千のプラトー』(1980)で複雑に展開されるRhizome(リゾーム)の概念からつけられている。本作では、そのリゾームの原則を網羅しながら、生物学的な意義と哲学観の考察が試みられている。作者によれば、スティーヴ・ライヒの音楽のコンセプトとエッシャーの数学的な作品、そしてボッシュやブリューゲルの絵画と、遺伝学のような生物の進化に関する理論やミクロとマクロの関係などの要素のあいだに生まれてくる何かをつくりたいと考えるなかで、このドゥルーズとガタリの概念が頭に浮かび創作につながったという。若い作者の興味と欲求を具現化した独創的な作品である。


JAPAN MEDIA ARTS FESTIVAL
Isand (The Master)

Riho UNT (エストニア)

第19回 アニメーション部門 優秀賞18分00秒
短編アニメーション

一軒の家で、ある日を境に戻らなくなった主人(Master)の帰宅を待つ犬のPopi(ポピー)と猿のHuhuu(フフー)を描いた短編アニメーション。Huhuuは最初、檻に入れられていたが、そこから出ることに成功すると2匹の共同生活が始まる。Popiは、実際はHuhuu以上に賢く強いのだが、従順かつ恭順な性格の持ち主であることから、Huhuuの気まぐれの前に屈服してしまう。そのHuhuuは愚かなまでに自由奔放な性格で、部屋の中を好き放題に散らかしてしまう。本作の原作は、エストニアの作家フリーデベルト・トゥクラスの短編小説『Popi and Huhuu』(1914)である。コマ撮りによるリアルなパペット・アニメーションである本作によって、作者は権力の恐ろしさと愚かさを問いかけ、権力とは何かを究明しようと試みている。われわれの主人とはどのような者か。もしその主人の性質や行動がHuhuuと似ているとしたら、その結果はどのようになるだろうか。動物らしい「動き」が巧みに表現されているだけでなく、強いコンセプトが描かれた作品。


My Home
My Home

NGUYEN Phuong Mai (フランス)

第19回 アニメーション部門 優秀賞11分54秒
短編アニメーション

物語は、片田舎で7歳の少年Hugo(ユーゴ)と母親の2人が暮らしているところに、ある日、鳥の頭を持つミステリアスな男が家族に加わることから始まる。Hugoは、母親との2人だけの世界に突然現われたこの見慣れない鳥男のふるまいや習性に戸惑いを覚えるが、母親は違和感なく接しており、Hugoの不安や憤りは募っていく。そしてHugoは鳥男に対する探究心から行動を起こし、そこで現実と夢のあいだ、人間性と動物性のあいだを目のあたりにすることになり、幼年期から大人の世界へと一歩を踏みだす。本作はHugoの視点で描かれているため、鑑賞者は彼の目を通して物事を経験し、彼に感情移入しながら、この突然の変化に巻き込まれていくことになる。美しさと醜さのあいだという独特な観点から、鑑賞者にも馴染み深いイメージや感情を用いながら、家族の再構成が描かれた作品。また、全編を通じてセリフは用いられず、静謐さを持った作品に仕上がっている。


Yùl and the Snake
Yùl and the Snake

Gabriel HAREL(フランス)

第19回 アニメーション部門 優秀賞13分11秒
短編アニメーション

作者が南フランスで過ごした少年時代の体験をもとに発想された成長物語。13歳の少年Yùl(ユル)は、兄Dino(ディノ)に連れられて、兄が取引をする大きな番犬を連れた地元の暴君のMike(マイク)のもとへと行くが、そこで暴力と屈辱に直面する。そして、Yùlが追いつめられたとき、不思議なヘビが現われる─。作者の短編アニメーション監督第1作めとなる本作は、まず俳優の演技による実写映画として撮影され、そのうえで2Dコンピュータ・アニメーションとして制作されている。このようなプロセスによって、構図および登場人物の会話は現実味を獲得することに成功している。モノクロの映像がリアリズムとファンタジーのあいだを往復しながら、カラーで描かれた物語の核となる部分がこのバランスを強調しており、短編ながら特徴的な作風が作品に広がりを与えている。


Chulyen, a Crow's tale
Chulyen, a Crow's tale

Agnès PATRON / Cerise LOPEZ(フランス)

第19回 アニメーション部門 新人賞20分00秒
短編アニメーション

Chulyen(チューリェン)は、半分は人間、半分はカラスの姿をした生物で、その慈悲を欠いた目からもわかるように、傍若無人な性格の持ち主である。舞台となるのは、遠く北の大地の森と湖で、広がる夜空にはオーロラが描かれる。Chulyenは、巨人の乗っているカヤックを欲しいと思えば、それを奪い取ってしまうなど、興味の赴くままに行動するが、精霊たちに跡をつけられて─。Chulyenとは、北方のネイティブ・アメリカンの伝承に登場する、架空の生物で、本作もその物語を原作にして制作されている。シンプルだが時に荒々しいドローイングと実写が入り混じるモノトーンの描写で、独特のサウンドも携えており、強烈な世界観を醸しだしている。


Deux Amis (Two Friends)
Deux Amis (Two Friends)

Natalia CHERNYSHEVA (ロシア)

第19回 アニメーション部門 新人賞4分4秒
短編アニメーション

たとえ親友であっても異なる世界の出身者同士であれば、時には相手について大きな誤解をしていることがある。本作において、イモムシは、池に落ちたところを危機一髪でオタマジャクシに助けられる。突然の出会いから友だちとなった2匹だが、オタマジャクシはカエルへと、イモムシは蝶へと変態して―。2匹には予想もできない結末が待っていた。セリフのない簡潔なストーリーを最小限の色彩で描く手法は、作者によるこれまでのアニメーションと共通しているが、短編アニメーション第3作目となる本作では、より明快でシンプルな作画を試みている。手描き風の背景と組み合わされた素朴な点と線による表現は、日本の葛飾北斎や歌川広重から影響を受けたものだという。


group_inou「EYE」
group_inou「EYE」

橋本 麦/ノガミ カツキ(日本)

第19回 エンターテイメント部門 新人賞3分32秒
ミュージックビデオ

Google Street ViewTM上の画像を繋ぎあわせ、その上をgroupinouの2人が駆け抜けるミュージックビデオ。世界中で撮影された膨大な量の画像をもとに、インターネット上に再構築された「視点」の連続をキャプチャーして映像化している。本曲が収められたgroupinouのアルバム『MAP』にちなんだこの作品は、数々のデジタル・ツールを駆使して徹底的に効率化する過程と、一コマずつ緻密につくりこむ過程の両方によって制作されている。また、制作方法やそのツールはすべてオープンソース化し公開している。シンプルなアイデアながら、テクノロジーの流行や時代性に依存しない、作者の熱量の感じられる映像作品となっている。


Gill & Gill
Gill & Gill

Louis-Jack HORTON-STEPHENS (英国)

第19回 アート部門 新人賞16分21秒
映像作品

本作は、碑文彫刻家とロック・クライマー、ともに岩石に関わる専門家の姿から、人間と岩石との関係性を讃え探求する、映像によるエッセイであり、直感的な詩的作品である。石に関わる2人の巨匠、近代碑文彫刻の祖Eric GILL(エリック ジル)と近代ボルダリング(岩壁を登るスポーツ)の祖John GILL(ジョン ジル)に注目する。2人のジルについての語りとともに、カメラは21世紀の後継者たち、碑文彫刻師のRichard KINDERSLEY(リチャード キンダースリー)とイギリスの女性クライマーLucy CREAMER(ルーシー クリーマー)を捉える。彫刻家は清閑な工房で石を彫り、研磨し、クライマーは荒々しい風景のなか孤独に岩を登る。対照的に見えるが、じつは驚くほどよく似た熟練の技を見出すことができる。鑿のみは岩を刻み、手は岩肌を摑む。独特なこの対比から、同じ素材に向き合いながら創造性を共有し、問いを解決していくさまが記録されている。