このプログラムは、メディア芸術祭の受賞作品の中から、MVを中心に「音楽作品のみを音響に使用した短編アニメーション作品」を選出したものです。
MVは、作家が比較的自由に制作し、自分の持ち味を発揮する事ができる、数少ない受注仕事の一つであると言えます。近年、音楽作品が動画共有サイトを通じて鑑賞されるようになった事で、MVの必要性が増し、日本国内では若者を中心にアニメMVの大きなムーブメントが起きています。
今年度のソーシャル・インパクト賞を受賞した『ハゼ馳せる果てるまで』は、そのムーブメントの代表的な作品といえるでしょう。今年度のエンターテイメント部門で新人賞を受賞した『Canaria』は、VRを使った手描きアニメーションMVで、アニメーション表現の新たな可能性を感じさせるものとなっています。
『Airy Me』『やますき、やまざき』『サティの「パレード」』は音楽制作者側からの発注で制作された作品ではなく、音響として音楽作品を使用した映像作品です。中でも『サティの「パレード」』は1917年に初演されたバレエの音楽にアニメーションをつけたもので、MVのようでもあり舞台のアニメ化でもある、大変希有な作品です。
アニメーション作家が楽曲から何を感じとり、それをどれだけ飛躍させ、具現化しているかをお楽しみいただくと同時に、あまり馴染みがないであろう日本の音楽作品をお楽しみ頂ければ幸いです。
最後に、諸事情のため選出できなかった優れた作品が他にもたくさんありました。MVはネット上で無料で公開されている事が多く、調べればすぐに観ることができますので、「もっとこういうのが観たい!」と思っていただけた方は、是非、歴代の受賞作品の中からMV作品を探してみてください。
プログラム名:「アニメーション×ミュージック ―メディア芸術祭受賞作より―」
キューレーター:大山 慶(プロデューサー/株式会社カーフ代表取締役)
制作:文化庁メディア芸術海外展開事業
映像尺:46:49
コピーライト:© 2021 Agency for Cultural Affairs, Government of Japan All Rights Reserved
Cuushe “Airy Me”
久野遥子
2013 / ミュージックビデオ、短編アニメーション / 05:38
第17回 アニメーション部門 新人賞
cuusheの同名曲からインスパイアを受け制作した作品。
謎の生体実験が行われる病棟で日々看護師から投薬を受ける被験者。ある時、看護師が被験者のスイッチを押すと、キメラへと変貌を遂げてしまう。人にあらざる姿になろうとも人間的欲求を持ち続けた時、果たしてどんな光景が生まれるのか。そしてそれは看護師と被験者の関係にどんな変化をもたらすのか―。
アニメーション:久野遥子
音楽:Cuushe “Airy Me”
久野遥子
アニメーション作家/イラストレーター
シシヤマザキ “やますき、やまざき”
シシヤマザキ
2013 / ミュージックビデオ / 02:22
第17回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品
ひどく嬉しい時、嬉しさが嬉しくて、何が嬉しかったのか忘れるぐらい嬉しい。
体をめぐる喜びの循環。
ディレクター:シシヤマザキ
音楽:Yamasuki’s
Yama Yama:Daniel Vangarde
シシヤマザキ
アーティスト
トクマルシューゴ “Poker”
水江未来/中内友紀恵
2014 / ミュージックビデオ / 03:37
第18回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品
トクマルシューゴのデビュー10周年記念MVであり、ノーマン・マクラレン生誕100年を記念した音楽アニメーションです。作品内には、マクラレンの代表作「線と色の即興詩」へのオマージュが散りばめられています。
監督・アニメーション:水江未来/中内友紀恵
音楽:トクマルシューゴ
水江未来/中内友紀恵
監督
MIRAI FILM
group_inou “EYE”
橋本 麦/ノガミカツキ
2015 / ミュージックビデオ / 03:32
第19回 エンターテインメント部門 新人賞
Google Street View上の画像を繋ぎあわせ、その上をgroup_inouの2人が駆け抜けるミュージックビデオ。本曲が収められたアルバム「MAP」にちなみ、世界中で撮影された膨大な量の画像をもとに、インターネット上に再構築された「視点」の連続をキャプチャーして映像化した。
素材:Google Street ViewTM
システム・ソフトウェア:Hyperlapse.js/ openFramework/Node.js/Arduino
音楽:group_inou
橋本 麦
映像作家
ノガミカツキ
現代アーティスト
サティの「パレード」
山村浩二
2016 / 短編アニメーション / 14:12
第20回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品
フランスの作曲家エリック・サティが50歳のときに作曲に着手した「パラード」は、詩人アポリネールがはじめて「シュルレアリズム」という言葉で紹介したバレエ音楽。1917年に初演されたバレエは、サーカステントの前で3人のマネージャーと4人の演者が客寄せをするという設定が柱となって演じられた。
100年前のこの舞台を、サティのエッセイからのテキストと共に、ウィレム・ブロイカー楽団の演奏にあわせ、超現実的バレエ映像としてアニメーションでの再現を試みた。
オリジナルのバレエに登場する人物たちの他、このバレエを創作したジャン・コクトー、パブロ・ピカソ、エリック・サティも登場し、サティ作品の風変わりなタイトルや、サティが音楽を担当し出演もした、ルネ・クレール監督の映画「幕間」、サティと交流の深かったマン・レイ、ピカビアなどの美術からの引用も散りばめられている。
サティ生誕150年、「パラード」作曲100年を記念して、2016年に完成。
音楽・文章:エリック・サティ(1866-1925)
演奏:ウィレム・ブロイカー楽団
編曲:ウィレム・ブロイカー(1944-2010)
監督・アニメーション:山村浩二
翻訳:イラン・グェン
製作:ヤマムラアニメーション
山村浩二
監督/プロデューサー
EVISBEATS “NEW YOKU”
最後の手段(有坂亜由夢/おいたまい/木幡 連)
2018 / ミュージックビデオ / 04:15
第22回 エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品
異次元浴場へようこそ
ここは山の神さまのご好意より、無料にて解放させていただいております お湯場です。老若男女どなたさまでもご入浴できます。お湯場には、あの世この世から様々な生き物が湯治に来ております。
作詞:EVISBEATS/CHAN-MIKA
作曲:EVISBEATS/Kazuhiko Maeda
アニメーション:Saigo no Shudan
最後の手段(有坂亜由夢/おいたまい/木幡 連)
有坂亜由夢:アーティスト(アニメーション/コミック/グラフィック)
おいたまい:グラフィックデザイナー
木幡 連:アーティスト(映像/コミック/グラフィック)
清水煩悩 “シャラボンボン”
幸 洋子
2019 / ミュージックビデオ / 02:20
第23回 アニメーション部門 審査委員会推薦作品
清水煩悩の楽曲「シャラボンボン」のミュージックビデオとして制作された作品。「シャラボンボン」というフレーズが印象的な軽快なアコースティックサウンドにあわせ、鳥、花、人といった生き物が次々に登場する。ノイズ加工が施された蛍光色のような鮮やかな色の効果は、2Dアニメーションをブラウン管テレビで再生した映像を撮影することで得ている。
監督:幸 洋子
音楽:清水煩悩
幸 洋子
アニメーション作家
ずっと真夜中でいいのに。 “ハゼ馳せる果てるまで”
Waboku
2019 / ミュージックビデオ / 04:05
第24回 アニメーション部門 ソーシャル・インパクト賞
疾走感溢れるサウンドとハイトーンボイスに合わせ、仲間や過去に別れを告げ一人宇宙へ旅立つ少女の回顧と顛末が描かれた。普段着から宇宙服のような服へ変わった彼女。マイクを持ち歌ったり、サーフボードに乗り宇宙を駆け抜けたり、リズムに合わせて踊ったりと、アニメーションが次々に展開していく。変な生き物や荒廃した場所、古代文字のようなフォントにより、ポップだがどこか退廃的な世界観を示す。一つのストーリーを辿るのではなく音楽を優先し、その魅力とイメージを増長させるようなつくりである。
音楽:ずっと真夜中でいいのに。
アニメーション:Waboku
Waboku
アニメーション作家
株式会社キャラメルハニーパンケーキ
トクマルシューゴ “Canaria”
油原和記
2020 / ミュージックビデオ、VRアニメーション / 04:18
第24回 エンターテインメント部門 新人賞
東京藝術⼤学⼤学院映像科アニメーション専攻に在籍するゆはらかずきによる360°⼿描きVRアニメーションで、実験精神とポップさを同居させるトクマルシューゴの同名の楽曲のミュージックビデオでもある。制作に半年以上をかけ、1羽のカナリアと世界との出会いをテーマに、360°すべてをカラフルかつ綿密に手描きした。VRゴーグル、全天球スクリーン、パソコン、スマートフォンでの再⽣に対応しており、映像的な演出がありながらもVRならではの自由さが与えられた仮想空間内で、鑑賞者は壮大な世界観への没入を促されていく。ミュージックビデオを鑑賞から体験へと再定義しようとする作品。
音楽:トクマルシューゴ
アニメーション:島尚比呂
ディレクター&アニメーション:ゆはらかずき
360度ミキシング:葛西敏彦
技術協力:久保二朗
油原和記
イラストレーター/アニメーション作家/ゲーム作家
東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻