- 企画展&上映
第24回サロン・デル・マンガ
参加概要
文化庁では、メディア芸術海外展開事業として、バルセロナで2018年11月1日(木)〜11月4日(日)に開催されるスペイン最大のマンガフェスティバル「第24回サロン・デル・マンガ」にて、「言葉と物と獣」(スペイン語タイトル:「Lenguaje, objetos y bestias」)展を実施します。「文化庁メディア芸術祭」の受賞作品を中心に約 130 点のマンガ原画を展示するほか、映像作品やメディアアートインスタレーション等を展示します。また、『BEASTARS』(秋田書店)作者 板垣巴留氏がトークセッションやサイン会を実施するほか、『進化する恋人たちの社会における高速伝記』作者 畒見達夫氏がパブリックトークを行います。更に、フェスティバル内で、第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品を中心としたプログラムの上映も行います。
「言葉と物と獣」展について
マンガなどの擬人化表現で動物や物は、時に人間よりも人間らしく振舞います。また彼らが「言葉」 によって理性と欲望の間で葛藤するように、「言葉」は価値の破壊や創造と結びついています。
「獣」や「物」の振舞いと「言葉」の使われ方を通して、私たちの関係性を考えるとともに、多様な語りの在り方を本展の中で探りたいと思います。
- 会 期:2018年11月1日(木)〜 11月4日(日)
- 会 場:Fira Barcelona Montjuïc Hall5 Level1(スペイン・バルセロナ)
- 企画ディレクター:戸田康太(独立行政法人日本芸術文化振興会プログラムオフィサー)
出展作品
第1章 獣(=欲望)を飼いならす言葉
最初に動物が人間らしい姿で描かれる「擬人化」表現を紹介します。「擬人化」は決して珍しい表現手法ではありませんが、ここで紹介する作品では、登場人物たちが「自分は何者で、何をするべきなのか」を自問します。彼らは自分たちの生きる世界で、自身の中にある「欲望」と向き合い、葛藤します。その様子は、時に人間よりも人間らしさを感じさせます。
学園ドラマ、野生での戦い、探偵物語など、擬人化の程度やテーマも様々ですが、独自の説得力を持って、私たちを作品世界へと没入させます。
第2章 「物」が語りだすとき
擬人化表現は、動物などの生物に対して行われるだけでなく、生物以外の「物」に対して行われることもあります。ここでは、生命を持たない「物」たちが巧みな表現手法によって、あたかも生命力を持っているかのように振る舞い始める作品を紹介します。
工場機械や家電製品、食べ物やコンピューター上のプログラムなど、これらが生物らしく見えてしまうのは、巧みな表現技法だけでなく、作品を見る私たちにも、そのような「見方」が根付いているからかもしれません。
第3章 「語り」から「物語」へ
私たちは多くの言語に囲まれており、多様な「語り」の在り方を知っています。「語り」は「欲望」を抑制することも、時には、さらなる「欲望」を生じさせることも可能にします。ここでは「語ること」が、価値の創造や発見、継承へとつながっていく作品を紹介します。
落語や茶道、伝統工芸など様々な人間の営みに対して、私たち人間は独特な美意識を見出してきました。それが歴史となり価値が継承されてきたのは、それについて一生懸命に語る「誰か」がいたからではないでしょうか。
関連イベント
トークセッション:板垣巴留氏(『BEASTARS』)・ Frédéric Toutlemonde氏(『BLACKSAD』日本語版の出版社ユーロマンガの代表)とのトーク
会場 | 日時 |
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Conference Room 5 in Hall 5 | 11月3日(土)12:00〜13:30 |
パブリックトーク:畒見達夫氏(『進化する恋人たちの社会における高速伝記』)トーク
会場 | 日時 |
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Conference Room 5 in Hall 5 | 11月4日(日)14:30〜16:00 |
サイン会:板垣巴留氏(『BEASTARS』)
会場 | 日時 |
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Conference Room 5 in Hall 5 | 11月2日(金)10:30〜11:30 |
1993年 東京都出身。武蔵野美術大学映像学科卒。2016 年「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に短期集中連載『BEAST COMPLEX』掲載。同年9 月に同誌で初連載『BEASTARS』開始。
上映
”Focus on Animation”
第21回文化庁メディア芸術祭:アニメーション部門の受賞・審査委員会推薦作品選出5作品で構成されたプログラム。
会場 | 日時 |
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Auditorium Room 7 in Hall 5 | 11月1日(木)9:30 〜 11:00 |
展示会場内上映(Hall 5 Level 1) | 毎日 17:00 〜 18:00 |
”21st Japan Media Arts Festival Award-winning Program”
第21回文化庁メディア芸術祭:アニメーション部門、エンターテインメント部門、アート部門の受賞作品を収録。
時代を映し出す文化庁メディア芸術祭のトレンドをアーカイブします。
会場 | 日時 |
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Auditorium Room 7 in Hall 5 | 11月3日(土)9:30 〜 10:30 |
展示会場内上映(Hall 5 Level 1) | 毎日 10:00 〜 11:00 |
”村田朋泰 ストップモーションアニメーション特集”
村田朋泰氏の作品特集。作品を通して、日本人のアイデンティティの1つである、あらゆるものが変転し移ろいゆくものにこそ美しさを感じる日本人の「無常観」を一貫して表現しています。
会場 | 日時 |
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展示会場内上映(Hall 5 Level 1) | 毎日 14:30 〜 15:50 |
レポート
2018年 12月 更新2018年11月1日(木)〜11月4日(日)までバルセロナで開催されたサロン・デル・マンガは過去最多の約15万人を動員し、大盛況に終わりました。
期間中、バルセロナの街では朝早くからコスプレをした人たちが会場を目指して歩き、街中がフェスティバルを楽しむ様子が印象的でした。
会場ではスペイン語版のマンガやグッズの販売から、着付け、将棋、アニソン、日本語教室、日本食、クッキングスクールまで、マンガを通して日本の文化が紹介され、大変な人気で受け入れられており、スペインの方々の日本好きに圧倒されました。
また、質の高い展示空間となった「言葉と物と獣」展は、現地の新聞全国紙5誌、地方版5誌、さらにスペイン国営放送で紹介され、連日大にぎわいをみせました。
フェスティバル会場の様子と「言葉と物と獣」展をレポートします。
フェスティバル会場内
『言葉と物と獣』展 完成会場
現地の新聞全国紙5誌、地方版5誌、スペイン国営放送TVEで紹介され、連日多くの人でにぎわった。
スペインはマンガをアートとしてリスペクトする文化があり、展示した原画をとても興味深く鑑賞されていた。メディアインスタレーションや映像作品もじっくりと鑑賞され、何度も訪れる人もいた。
板垣巴留氏(『BEASTARS』)× Frédéric Toutlemonde(フレデリック トゥルモンド)氏(『BLACKSAD』日本語版の出版社ユーロマンガの代表)とのトークセッション 2018年11月3日
トークセッションでは、板垣氏による『BEASTARS』関連エピソード披露や、初訪問であるバルセロナの話に加え、その場でライブ・ドローイングが行われた。また、MCのFrédéric Toutlemonde氏はスペインの大人気コミック『BLACKSAD』の日本語版プロデューサーであり、「いつか、『BEASTARS』と『BLACKSAD』のキャラクターの共演が実現したら!?」、という夢のコラボレーション・アイデアが飛び出す等、参加したファンが大いに楽しめるイベントとなった。
板垣巴留氏のコメント
この大きな祭典に招待され、スペインという国がとても芸術に特化した国なのだと再認識しました。『BLACKSAD』(※著者のファンホ・ガルニドがスペイン出身。)を始め、独自のマンガ文化を作り上げる熱量はイベント会場でもひしひしと伝わりましたし、何より日本のマンガを愛してくださっていることが分かり、とても嬉しかったです。膨大な数の日本のマンガが広い会場に並んでいる様は本当に圧巻でした。TVニュースの報道などでは見られない、本場の国交があったように思えます。ガウディの建築を含む街の情景も素晴らしく、国全体が美的センスを大切にする姿勢はとても勉強になりました。日本の片隅で描いている自分のマンガも、より世界に届くものにできるよう一層身を引き締めようと思います。
畒見達夫氏(『進化する恋人たちの社会における高速伝記』)パブリックトーク 2018年11月4日
サイエンス、テクノロジー、アート、エンターテインメント等の幅広い視点から、出展作品『進化する恋人たちの社会における高速伝記』の制作・コンセプトにまつわるエピソードが披露された。更に、同作品のスペイン語版制作と今回のバルセロナ訪問に関連して、スペインのアーティストについてのロジカルな考察も語られた。
畒見達夫氏のコメント
マンガと日本文化を中心とする催しでのアート部門からの展示とのことで、ご提案をいただいたときは、やや不安はありましたが、展示コンセプトの中での位置付けは、ものが生み出す物語ということで、うまくフィットしたと思います。日本と現地の有能なスタッフに支えられ、設置と運用もスムーズに行えました。なにより大勢の来場者の方々に見ていただけたことは、大変うれしく思います。共同創作者ダニエル・ビシグの友人からの協力を得て、展示の準備として作品のソフトウェアをスペイン語に対応すべく拡張したことも良い経験になりました。その後、調子付いてアジアの言語への対応に取り掛かったのですが、言語の構造や意味の違い、さらに、人名の呼び方や命名方法など、文化の多様性をいまさらながら思い知る機会になりました。