- 企画展&上映&トークイベント&パフォーマンス
アルス エレクトロニカ フェスティバル 2019 - OUT of the BOX - デジタル革命の中年の危機 -
令和元年度メディア芸術海外展開事業は、オーストリア・リンツで2019年9月5日から9日まで開催されるアルス エレクトロニカ フェスティバル 2019に参加致します。
展覧会テーマ:『Out of the Box - The Midlife Crisis of the Digital Revolution』
アルス エレクトロニカは、デジタル革命とその起源・それらの成功・さらには愚行に渡るまで追いかけ、予測し、分析してきました。新しい技術と科学の発展に対して、アート・テクノロジー・ソサエティのフェスティバルとしての文化的および社会的意義は、常に最前線に立っています。今年、アルス エレクトロニカは創立40周年を迎え、デジタルリアリティ、またそれが持つ未来への展望、私たちの選択肢に向けた芸術的かつ科学的な見通しは常に前を見据えています。
アルス エレクトロニカは、『Out of the Box - デジタル革命の中年の危機』に沿って、現代の世界とそのテクノ経済の影響、それらの未来への展望とアクションの選択肢を、芸術的にそして科学的に調査する探検に乗り出します。
「Out of the Box(=既成概念にとらわれない・型にはまらない)」とは、私たち全員に向けて、快適なゾーンから抜け出ることを示しています。人工知能、遺伝学と生物工学の融合、そして地球の生態学的破壊といった火急の問題に直面しても人類がその能力を維持するためには、人間が作り出した20世紀のデジタルシステムという未知の領域へ、アートを使って塀の外側を見て、何が可能か判断し、何がそれを超えるか、挑戦しなければなりません。
アルス エレクトロニカの40年 - アートシンキングの40年
ここでいうアートは、デジタル革命に対するクリティカル・シンカー(批判的思想家)の「セカンドオピニオン」です。アート・テクノロジー・ソサエティのフェスティバルである意義とは、アートの手立てとアーティストの感覚を活用し、起こりうる将来の変化や現在起こっている変化を観察・分析し、それらの文化的、社会的側面とその影響について見解を出すことです。
芸術的な思考と行動の古くからの原則「見えないものを見えるようにする」、舞台裏に何があるか見る好奇心、そしてより良くするための衝動、簡単に答えを出そうとすることに対する不満、デフォルトの解決策に対する懐疑的な姿勢、新しい方法とたゆまない創造性、これらすべてが芸術的エコシステムに由来するファクターであり、私たちが将来への道を進む上ですぐにでも必要な、人々の気が付かないような物事について教えうる、批判的で適確な視点となり、それらを組み立てることを完璧に助けます。その道とは、より良い未来のビジョンを必要とする以上に、現在の問題を考慮に入れなければならないものです。
アルス エレクトロニカの歴史、そして数多くの先見性のある芸術的プロジェクトは、ポジティブとネガティブを備えた未来のシナリオがますます現実化しつつあり、アート・テクノロジー・ソサエティ間のコラボレーションの有効性を証明するのに役立ちます。だからこそ注目すべきは、40年前にアルス エレクトロニカを設立した先見の明です。
メディア芸術海外展開事業
企画テーマ:『日常でのアルゴリズムと身体が生み出す表現』
会 期:2019年9月5日(木)〜 9月9日(月)
会 場:POSTCITY 他(オーストリア・リンツ)
企画ディレクター:関口敦仁(愛知県立芸術大学美術学部教授)
アルス エレクトロニカ フェスティバルは今年で開催40周年記念となり、国際的な新しいメディア表現を発信するイベントとして定着し、世界的に影響を与えています。文化庁メディア芸術祭は22年目を迎え、その歴史とクロスさせ、日本のメディアアートとの関係性と継続性を示す展示とシンポジウムを今回のフェスティバルで企画しました。
日本のメディアアートは、1960年代フルクサスのインターメディア表現での詩的表現の拡張から、東京の代々木第2競技場内で行われた、クロストーク/インターメディア(1969年)、大阪万博(1970年)での映像インスタレーション表現などが始まりとされています。それらから継続して、ビデオ、コンピューター、などのその時期のメディアの変化を背景としながら、現在まで様々な日本のメディアアート表現を繰り広げてきました。その特徴としては、社会が新たなメディアをとりいれた状況から発生する日常との接点をアーティストそれぞれの方法によって、繰り返されてきた点が挙げられます。それらを踏まえ、作品展示『日常でのアルゴリズムと身体が生み出す表現』を行います。
企画ディレクター:関口敦仁
Installation
『Lasermice』(2018)
展示場所:POSTCITY 地下
- アーティスト:菅野 創
- ジャンル:メディアインスタレーション
- 第22回 アート部門 優秀賞
- 作品概要:
- ホタルなどの群生する生物に見られる同期現象に着想を得た60台の自走する小型ロボットを用いて、有機的にリズムを生成するインスタレーション。群生生物は、各個体が互いにコミュニケーションすることで一斉に行動する。生物の場合、そのコミュニケーションは不可視だが、本作ではレーザー光によってコミュニケーションをするため、そのネットワークは視覚的である。ロボットは互いの発するレーザー光に呼応して、レーザー光と同時に打撃音を発する。鑑賞者は常に変化するそのリズムを、音と光によって空間的に認識できる。私たちは蛙の合唱や鈴虫の鳴く声、群れで舞う鳥の大群といった自然の営みを美しいと感じ、鑑賞する。鑑賞に値する自然のようなものを人工的につくれないだろうか。このプロジェクトは自然現象のアルゴリズムに着想を得て、且つ単なる模倣ではないオリジナルのアルゴリズムをつくることによって新たな表現を模索する試みである
- アーティストプロフィール:
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1984年千葉県出身。2013年よりベルリンを拠点に活動。
テクノロジーの進化や変化がもたらす事物の本質的な変化に自覚的に、新しい視点をもたらすべく作品を制作する。近年は主に多数のロボットを用いたシステムを制作している。
この作品からは、都市景観の中での様々なスケールでの集合的景観を想起させます。
自動車の交通ラッシュ、スクランブル交差点での人の群れなど、一見して各自が自由に動く関係性は実は目の前や真後ろの車や人との関係性だけが全体の動きを作り出し、調和的なカオスを生み出しています。たくさんの人の集合が生み出す動きから、喧騒を避けて、裏道へと入る個人的な行為もそれは関係性から生まれるアルゴリズムによる動きであり、大きな流れから支流となる水の流れの一つです。そのような一つのパーツである身体は大きな集合としての意思を示しているかのようです。
企画ディレクター:関口敦仁
Performance
『“Play Back” Curing tapes』(2018)
9月7日(土)15:30-16:00 St. Florian Monastery(AI x Music St.Florian)
- アーティスト:正直(小林 椋、時里 充)
- ジャンル:サウンドパフォーマンス
- 作品概要:
- 養生テープをモーターで巻き取る。モーターはパフォーマーによって回転方向やON/OFFがスイッチングによって操作され、テープは軸に巻き取られていく度に剥離音や持続音などが生じる。カセットテープのような「磁気テープ」は二つの軸の片方から片方へと巻き取られる際に、磁気ヘッドによって音が再生される。正直のパフォーマンスはこうした「磁気テープの巻き取り」と「養生テープの巻き取り」という運動をアナロジー的に結びつけることができる。音響再生産メディアとしての磁気テープには「磁性体」といった磁性を持つことのできる粉が散布されている。一方で養生テープの表面には「粘着剤」が散布されている。磁気テープは何度か録音、再生、消去を繰り返すことができ、養生テープもまた、一時的な接着を目的としているため、貼って剥がすことができる。そして、磁気テープの磁性体が劣化・摩耗するように養生テープの粘着剤の力も使えば衰えていく。正直は二つのテープの偶然の結びつきから、音響再生メディアの物理的な特性を参照し、養生テープを「再生」する。
アーティストプロフィール
正直
小林椋 [http://pocopuu.net/] と時里充 [http://tokisato.info/] によるバンド。
できるだけ正直に演奏する。2018年カセットテープKBをリリース。
小林 椋
1992年生まれ。2017年、多摩美術大学大学院美術研究科修士課程情報デザイン領域修了。2019年、京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。キネティックな動きを用いた音響装置から、映像などを組み合わせたインスタレーションを制作している。「ローのためのパス」が第22回アート部門審査委員会推薦作品に選定。
時里 充
1990年生まれ。2010年岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー、2012年多摩美術大学卒業。画面やカメラに関する実験と観察を行い、認知や計量化といったデジタル性に関する作品を制作発表している。
音は物理的な出来事。弦はその長さによって音階を発生する。目的の異なる、工事用テープが楽器?のように音を発生するとき、行為とのやりとりによって、時間軸に配置され音楽的なものになる。ジョンケージがかつて行ったプリミティブな演奏が思い出される。パフォーマンスを通して、それぞれのメディアが絶妙なコンビネーションを作り上げていきます。
企画ディレクター:関口敦仁
Symposium
Ars Electronica History Summit:『40 years of Japanese Media Art』
9月5日(木)16:00 - 17:00 POSTCITY Conference Hall
パネリスト:四方幸子、関口敦仁、畠中実、草原真知子、河口洋一郎、モデレータ:クリスタ・ソムラー
日本のメディアアートの歴史と未来に関するシンポジウム。
97年から続く文化庁メディア芸術祭では、これまで、アルス エレクトロニカをはじめとする海外のフェスティバルにおいて、日本のメディアアート作品の輩出をサポートしてきました。その結果、文化庁メディア芸術祭は国際的にもメディアアート分野を評価する正当なコンペティションとして認知されています。その受賞作品やアーティストはアルスエレクトロニカでも受賞したり、採用されたりと、日本のメディアアートの歴史に大きく関わってきています。
これらの複雑に絡んだ状況を日本のメディアアートという視点から、40周年を記念するこの機会に明らかにしていこうとしています。
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四方幸子
キュレーター。多摩美術大学・東京造形大学客員教授、IAMAS非常勤講師、明治大学兼任講師、オープン・ウォーター実行委員長。キヤノン・アートラボ(1990-2001)、森美術館(2002-04)、NTT ICC(2004-10)と並行し、フリーで先進的な展覧会やプロジェクトを数多く実現。近年の仕事に札幌国際芸術祭2014、茨城県北芸術祭 2016、メディアアートフェスティバルAMIT(ディレクター、2014-2018)など。
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関口敦仁
1958年、東京生まれ。1983年に東京藝術大学大学院美術学部絵画科修士課程を修了。1998~2009年、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)教授。1999年、東京にてキヤノンアートラボ第9回企画展「分離する身体」。2005年、仙台のせんだいメディアテークにて「景観」。2009~2013年、IAMAS学長。2017年、名古屋のアートラボあいちにて「LaGuerre-戦争」。アートロボティクス研究を主導し、アート分析研究のための芸術情報プロジェクトに従事している。
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畠中実
1968年生まれ。多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。1996年の開館準備よりICCに携わり「サウンド・アート」(2000)や「サイレント・ダイアローグ」(2007)、「[インターネット アート これから]—ポスト・インターネットのリアリティ」(2012)、「坂本龍一 with 高谷史郎|設置音楽2 IS YOUR TIME」(2017)など、多数の企画展を担当。このほか、ダムタイプ、ローリー・アンダーソン、八谷和彦、ライゾマティクス、磯崎新、ジョン・ウッド&ポール・ハリソンといった作家の個展を行う。
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草原真知子
早稲田大学名誉教授、工学博士(東京大学)。1980年代前半からCGとメディアアートのキュレーションと評論を始め、筑波科学博、世界デザイン博等の展示や東京都写真美術館、NTT/ICCの設立に携わる。SIGGRAPH、アルス エレクトロニカ、ISEA、文化庁メディア芸術祭、広島国際アニメーションフェスティバルなど国内外で審査委員を歴任。メディアアートと映像文化史の研究者としてデバイスアートなどメディアアート分野と幻燈、パノラマなどメディア考古学の分野で講演・論文・著作多数。
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河口洋一郎
東京大学名誉教授/アーティスト。鹿児島県種子島生まれ。1976年CG黎明期よりプログラミング造形『グロースモデル』の研究に着手。数理アルゴリズムにより導き出された自己組織的な技術手法による独自の作品群で世界的注目を集めた日本のメディア芸術の開拓者。『グロースモデル』を1980年代初めに国際学会SIGGRAPHで発表。毎年、MetaBallによる3DCGの動画作品をSIGGRAPH大会で発表。1986年6月にアルス エレクトロニカにて、作品『オーシャンOcean』を初公開。翌年にはミラノのスカラ座で、CG映像とオーケストラ、民族舞踊とのコラボ作品『GENESI創世紀』の公演を行う。現在、生物の『遊泳』『歩行』『飛翔』の知的挙動を応用する未来生物のインテリジェンスの作品研究を行っている。1984年ユーログラフィックス最優秀芸術賞をはじめとする国際賞グランプリを1980年代からCG映像で多数受賞。2013年紫綬褒章受章。2017年MOCA台北個展、2018年CDAフランスの美術館個展で大成功を博す。2018年フランス、Prix Bains NumériquesにてPrix D'honneur賞受賞。さらにSIGGRAPH Academy(殿堂入り)に選ばれる。
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クリスタ・ソムラー
クリスタ・ソムラーは国際的に有名なメディアアーティストであり、インタラクティブアートの研究者及び第一人者である。現在は、オーストリアにあるリンツ工科造形芸術大学のメディア学部インターフェイス・カルチャー学科長。過去に岐阜県にある情報科学芸術大学院大学(IAMAS)で助教授、京都府の国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の研究者及び芸術ディレクターとして日本に在住している。また、米国ケンブリッジのMIT CAVS、イリノイ大学アーバナ・シャンペーンのベックマン研究所、東京のNTTインターコミュニケーション・センターの客員研究員も歴任。北京の中央美術学院(CAFA)、筑波大学エンパワーメント情報学スタジオの客員教授、デンマークのオールボー大学のオベル客員教授も務めている。
ロラン・ミニョノーと共同し、これまでに約300もの国際展に参加。2人の作品は世界中の美術館やコレクションで展示されている。また、2016年にスペインのマドリードでARCO BEEP賞、2012年に中国でWu Guanzhong Art and Science Innovation Prize、1994年にアルス エレクトロニカのゴールデン・ニカ賞など、数々の賞も受賞している。
詳細はこちら:http://www.interface.ufg.ac.at/christa-laurent
展示『Japanese Media Art Timeline Infographics Project』
展示場所:POSTCITY, Rooftop
日本のメディアアート史の関係インフォグラフと日本のメディアアート関係者がどのように教育研究機関で作品や研究を展開したかを示すインターフェースを作成し、全体の流れを俯瞰して、メディアアートにおける継続性を理解する機会として、展開します。
Campus展と文化庁メディア芸術祭の連携企画
POSTCITY では毎回各国大学での先端的メディアアートプロジェクトの展示(Campus展)を行っていますが、今年は愛知県立芸術大学の企画による「Philosophy of Drawing」展(「ドローイングの哲学」展)が開催されます。
その中で、文化庁メディア芸術祭に関係する作品として「ボディジェクト指向」(小鷹研理)第22回審査員推薦作品、「だいちの星座ーたかはぎ座」(鈴木浩之/大木真人)第22回審査員推薦作品、「ポートレート」(大﨑のぶゆき)第12回審査員推薦作品と同シリーズが文化庁メディア芸術海外展開事業のサポートによって展示されます。
Campus展:愛知県立芸術大学企画 「ドローイングの哲学」展 POSTCITY, Campus
『だいちの星座 - たかはぎ座』(2018)
- アーティスト:鈴木浩之/大木真人
- 第22回 アート部門 審査委員会推薦作品
- 作品概要:
- 「だいちの星座」は、衛星と手作りの電波反射器を使って地上に新しい“星座”を描くプロジェクトである。陸域観測技術衛星だいち2号が電波を照射し、地表で反射された電波を読み取ることで地表を観察する。地面に配置した電波反射器を調整することで、だいち2号の電波を効果的に反射して、地上に“星座”を描く。
アーティストプロフィール
鈴木浩之:金沢美術工芸大学 美術科油画専攻 准教授であり、だいちの星座プロジェクト代表。1972年、静岡県生まれ。石川県金沢市を生活および仕事の拠点とする。ミラノ、ブレラ国立美術学院での留学から帰国した2010年以降、地球観測技術を使って地上に「星空」を描くプロジェクトを行っている。
大木真人:宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センター研究開発員。1982年、神奈川県生まれ。茨城県つくば市を生活および仕事の拠点とする。2007年に東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 修士課程を修了。現在、宇宙航空研究開発機構 地球観測研究センターにて、宇宙からのリモートセンシング技術やそれらの教育や芸術などへの応用について研究を進めている。
『Portraits』(2018)
- アーティスト:大﨑のぶゆき
- 「water drawing - ファンタム」第12回 アート部門 審査委員会推薦作品のシリーズより
- 作品概要:
- 自己と他人について瞑想する。記憶と知覚について。情報社会の中で生きる私たちの世界について。そしてまた政治や社会、予測不可能な災害について未来について瞑想する。考えれば考えるほど、私にとっての「この世界」とは、あいまいさや不確かさで溢れているのだ。これは決してネガティブではなく、その「あいまいさ」や「不確かさ」といった状態は、私が世界を捉えるにあたって、流動的な未知への可能性である。私は自身の存在を座標軸として、この「あいまいさ」や「不確かさ」の感覚について思考し、世界のありかたとその可能性について問いかけている。
- アーティストプロフィール:
- 1975年、大阪で生まれ。現在、愛知県立芸術大学 美術学部美術科 准教授。主な展覧会として、2017年「Noemi Weber/ Nobuyuki Osaki」(ルートヴィヒ・フォーラム美術館)、2015年「未見の星座-つながり/ 発見のプラクティス」(東京都現代美術館)、2012年「キュレーターからのメッセージ2012 現代絵画のいま」(兵庫県立美術館)など。受賞歴として、2017年「大阪市 咲くやこの花賞(美術部門)」、2013年「VOCA 佳作賞」、2009年「第12回文化庁メディア芸術祭 審査委員会推薦作品」など。
『ボディジェクト指向』(2018)
- アーティスト:小鷹研理
- 第22回 アート部門 審査委員会推薦作品
- 作品概要:
- 「ボディジェクト指向」は身体を物に見立てた“ボディジェクト”の体験を見る者に与える映像作品である。この作品では、1枚の両面鏡を平面ディスプレイに対し垂直に置き、左右を、身体を映す画面と物を映す画面に分けている。身体を映す画面には奇妙な指が映り込み、物を映す画面には野菜スティックが見える。そして両物体が大まかにシンクロするように誰かの手に操られながら映像が続いていく。そんなパラレルな世界を見ていると、まるで自分の身体の一部ではないような感覚に陥る。
アーティストプロフィール
1979年生まれ。早稲田大学より博士号(工学)を取得。2012年、名古屋市立大学の准教授に就任。認知心理学の枠組みにおける主観的な<からだ>(body image)の錯覚について研究。2011年にシステムインテグレーションに関する国際会議SIIにて「BEST PAPER AWARD (Robotics)」、2015年に情報処理学会シンポジウム・インタラクションにて「インタラクティブ発表賞」、2017年に情報処理学会シンポジウム・エンターテインメントコンピューティングにて「UNITY賞」など、数々の受賞歴を持つ。2018年に文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品に選出される。
上映
”Ars Electronica Animation Festival 2019”
「第22回文化庁メディア芸術祭受賞作品プログラム」
第22回文化庁メディア芸術祭:アニメーション部門、アート部門の受賞作品を収録。時代を映し出す文化庁メディア芸術祭のトレンドをアーカイブします。
作品の詳細はこちら
会場 | POSTCITY, Art Thinking House - Animation Festival Floor |
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スケジュール | フェスティバル期間中、毎日上映 |
レポート
アルス エレクトロニカは今年40周年を迎え、世界45カ国から1449人のアーティスト、科学者、活動家などが参加しました。会期中には548のイベント、また501点の作品が実施・展示され、来場者は11万人以上となっています。
大成功に終わった今年のフェスティバルは、文化庁を含む世界396のパートナーやスポンサー(大学や研究施設、企業、美術館、組織など)の協力によって成立しました。そしてまたこの模様は38カ国から訪れた461のメディアによって世界中において紹介されています。
ここでは、メディア芸術海外展開事業として参加した展示、パフォーマンスなどの様子をレポートします。
『Lasermice』(2018) 菅野創
地下1階バンカーと呼ばれるエリアの奥で展示された本作は、ひときわ目を引く展示となりました。ロボット同士のレーザーの呼応とサウンドは、鑑賞者にまるで命のような美しさを想起させ魅了しました。
- © vog.photo
菅野創氏のコメント
僕がもらった場所は展示の邪魔になりそうな柱があるバンカーの一部の音のとても響く場所でした。柱を避けるようにロボット用のステージをL字型に組むというプランで展示に望みました。結果は良好で、音もよく響き、空間をうまく使えたと思います。目の肥えたアルス エレクトロニカのオーディエンスを相手に展示も好評で、手応えのあるものになりました。
『Japanese Media Art Timeline Infographics Project』
ルーフトップではアルス エレクトロニカの40年を振り返る各種資料が展示されました。日本のメディアートを振り返るこのプロジェクトはルーフトップの最終コーナーに展示され、日本のメディアアート史が印象付けられていました。
Campus展:愛知県立芸術大学企画 「ドローイングの哲学」展
メディア芸術海外展開事業としては、『だいちの星座 - たかはぎ座』(2018、鈴木浩之・大木真人)、『Portraits』(2018、大崎のぶゆき)、『ボディジェクト指向』(2018、小鷹研理)を展示し、その他にDTG(大泉和文+加藤良将)、山本努武、石川陽菜、片山勲人+関口敦仁の作品が展示されました。
今年は世界各国より57もの大学がキャンパス展に参加し、展示するだけでなくお互いのアイディアやアプローチを交換しました。本展示はそれらの中でも興味深い展示となり多くの人が訪れ活発な議論がなされました。
鈴木浩之氏のコメント(『だいちの星座 - たかはぎ座』)
本作は、Postcity会場にて関口敦仁教授(愛知県立芸術大学)の企画による「Philosophy of Drawing」展(Campus Exhibition)を構成する作品として展示しました。リンツ市民のみならず、多くの国々の美術作家や科学者などに本作を紹介する場を得ると共に、幅広い専門の背景を持った来場者から本作の内容について様々な角度からご意見をいただく機会となりました。今回の出展により、デジタルCプリント出力したグラフィック作品(アクリルマウント)の展示が実現し、来場者に伝えるイメージを広げることができました。
大崎のぶゆき氏のコメント(『Portraits』)
出品作は映像インスタレーションであり先鋭的なテクノロジーを用いる作品ではなかったのですが、来場者の反応も高く、メディアアートを通じた未来の思想や社会を予見させる優れたプラットフォームとしてのアルス エレクトロニカという場の意義と意味について体感する非常に良い経験となりました。これらの経験は、これまで現代美術の分野で美術館やギャラリーなどの発表を中心としてきた自身にとって新鮮で刺激的であり、また様々な方々との交流や展示作品について質問などを受けて、新しいアイデアや可能性について議論したりと充実した機会となりました。
小鷹研理氏のコメント(『ボディジェクト指向』)
私が参加した展示『Philosophy of Drawing』は、バラエティ豊かな作品が集結しており、Campus Exhibition全体の中でもひときわ多くの来場者を集めていたように思いました。結果、様々な年齢層・文化圏の方からのリアクションを得ることができたのは幸運でした。とりわけ、小学生くらいの子供が、親から離れて「ボディジェクト指向」の映像に(文字通り)釘付けとなっている光景に何度も遭遇し、本作の与える心理的効果がユニバーサルな認知的基盤を有していることを強く確信しました。
『"Play Back ” Curing tapes』(2018) 正直(小林椋・時里充)
9月7日(土)15:30-16:00 St. Florian Monastery(AI x Music St.Florian)にてパフォーマンスが実施されました。
荘厳で豪華な教会で行われた本パフォーマンスには子供から大人までギャラリーが押しかけ、固唾を飲んでパフォーマンスの行方を見つめていました。養生テープが偶然と物理的必然性を持って作り出す音楽は、静かに始まりそして徐々にエキサイト。鑑賞者はこの言い表し難い面白さの音楽に夢中になっていました。
- © vog.photo
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SHOJIKI “Play Back” Curing Tapes @St. Florian Monastery from TOKISATO mitsuru on Vimeo.
小林椋氏のコメント
初めて訪れたアルス エレクトロニカは今年で40周年という節目の年でした。メディアアートという分野を引率してきたフェスティバルでありながらも形式化したジャンルではなく、未分類な・見知らぬものたちへの眼差しが多く感じられました。それは単に「新しい」ということではなく、未知なものへの視点が40年という厚みの中で育まれてきたということだと思います。ゆえに、私たちのパフォーマンスも幅広い層の人たちから反応していただけました。節目の年にアルス エレクトロニカに参加できたことを嬉しく思います。
時里充氏のコメント
私達正直は、AI x Music Festivalというアルス エレクトロニカの企画のなかの音楽フェスティバルで演奏しました。演奏した会場は、St. Florian Monasteryという教会の大理石ホールと呼ばれるところでした。
AIの対極のような正直の演奏ですが、場所の面白さ(なんと言っても響き、そして装飾の豪華さ)なども含め私達にとってとても刺激的な演奏になりました。今後この経験を活かしてあらたな展開につなげたいと思います。
Ars Electronica History Summit:『40 years of Japanese Media Art』
9月5日(木)16:00-17:00 POSTCITY Conference Hall にて日本のメディアアートの歴史と未来に関するシンポジウムを実施しました。
パネリストには四方幸子氏、関口敦仁氏、畠中実氏、草原真知子氏、河口洋一郎氏、またモデレーターにクリスタ・ソムラー氏を迎え、日本のメディアアートの発展についてそれぞれの観点から論じました。
四方幸子氏のコメント
アルス エレクトロニカ40周年の「History Summit」で「Japanese Media Art」セッションが組まれたことは、日本のメディアアートのアルス エレクトロニカにおける長年の活躍と貢献を物語っています。IAMASで教鞭をとっていたクリスタ・ソムラーが司会を務め、スピーカーに河口洋一郎、草原真知子、関口敦仁、畠中実各氏と筆者という異なる立場からの切り口によって、歴史的経緯や特徴を知っていただく貴重な機会となりました。今回のアルス エレクトロニカにも菅野創をはじめ多くのアーティストが出展、高く評価されたことと相乗して、日本のメディアアートへの理解と興味がさらに深まったと確信しています。
企画ディレクター 関口敦仁氏のコメント
令和元年度メディア芸術海外展開事業の一環として、国際的メディアアートの祭典「ARS ELECTRONICA Festival 2019」に参加し、その企画・キュレーションをしました。
テーマは『日常でのアルゴリズムと身体が生み出す表現』として、菅野創『Lasermice』(2018)の展示と、正直(小林 椋、時里 充)『“Play Back” Curing tapes』(2018)がサウンドパフォーマンスを行いました。そして、アルス エレクトロニカが40周年を迎え、深く関わりを持つ日本のメディアアートの歴史についてシンポジウムを行い、それぞれの分野、時代の関わりから出来事を示しました。また、PostcityのRooftopでは、アルス エレクトロニカ40年の歴史とともに、日本のメディアアート史として1950年代からの流れを、『Japanese Media Art Timeline Infographics Project』として、メディア芸術祭やアルス エレクトロニカとの関連も示しながら提示しました。また、Campus Exhibitionに鈴木浩之/大木真人、小鷹研理、大﨑のぶゆきの作品をメディア芸術祭選出者として展示をしました。『Lasermice』は、広い展示空間であるほどその表現の強さを発揮します。オープンな環境での展示よって、より生き生きとした作品の印象がありました。『“Play Back” Curing tapes』は聖フローリアン修道院でのパフォーマンスを行いました。宮廷文化としての大きな室内空間とチープなテープによるパフォーマンスのマッチングは、より身体性を際立たせる表現を提供したと思います。
- © Jürgen Grünwald
- © vog.photo
- © Philipp Greindl
- © tom mesic
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Postcityで開催されるアルス エレクトロニカフェスティバルは今年が最後となりました。
来年は9月10日〜14日の間、ヨハネス・ケプラー大学(リンツ)で行われます。
アートとテクノロジーそしてソサエティのあり方に鋭く迫るこのフェスティバルを今後も本事業は注目していきたいと思います。
未来の学校祭 参加レポート
メディア芸術海外展開事業は、2月20日(木)~24日(月・祝)まで東京ミッドタウンで開催された「未来の学校祭」に参加致しました。アルスエレクトロニカフェスティバル2019への出展報告会を兼ねた『Japanese Media Art Timeline Infographics Project』の展示とトークセッションの様子をレポートします。
「未来の学校祭」とは
未来の学校祭は、東京ミッドタウンとアルスエレクトロニカによる未来の社会をみんなで考える新しいお祭りです。アーティストによる社会への問いかけをきっかけに、様々なクリエイターや企業、大学が来場者とともに、未来の社会を考えます。コンセプトは「アートやデザインを通じて、学校では教えてくれない未来のことを考える新しい場」。イベント来場者はExhibition、Performance、Workshop、Talkなど子供から大人まで楽しめるプログラムを自由に体験することができます。
第2回未来の学校祭 テーマ:「脱皮 / Dappi – 既成概念からの脱出 – 」
社会の中に存在する見えない壁。自分でつくり出す限界。私たちは気がつかないうちに様々な既成概念という枠の中で生活しています。より良い社会をつくり、自分を成長させたいと思ってもそれが時にとても難しいのはこの既成概念から抜け出す方法が見えないからかもしれません。
ある種の生き物は、脱皮することで自分の古い型から抜け出し、新しい自分になります。私たちや私たちの住む社会はどのように自分でつくった殻を抜け出して脱皮していったらいいでしょうか。
このイベントでは、アート作品や既成の枠組みを打ち破ろうとするプロジェクトを通じて、私たちの社会を取り巻く既成概念から「脱皮」するきっかけを提案します。
『1950-2020 Japanese Media Art Timeline Infographics Project』
展示場所 | : | 東京ミッドタウン、メトロアベニュー(プラザB1) |
サイズ | : | 縦 1.6m × 横 10.5m |
企画制作 | : | Japanese Media Art Timeline Infographic Projects |
1950年代から現在まで日本で行われてきたメディアアートに関連する活動を年表として俯瞰するこのインフォグラフィックは、アルスエレクトロニカ2019 のPOSTCITY会場において展示した5m幅のものを約2倍に拡大し、フェスティバルの入り口となる通路に展示しました。内容と共に来場者の目を引くデザインでとてもインパクトのある作品となりました。
「Japanese Media and Art:日本のメディアアートとこれから」
開催日時 | : | 2月24日(月・祝)16:30-18:00 |
会場 | : | 東京ミッドタウン・デザインハブ内インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター |
スピーカー | : | 関口敦仁氏(愛知県⽴芸術⼤学美術学部教授/美術作家)、草原真知子氏(早稲田大学名誉教授/デジタルハリウッド大学客員教授)、落合陽一氏(メディアアーティスト) |
モデレーター | : | 小川絵美子氏(プリ・アルスエレクトロニカ・ヘッド) |
「Japanese Media and Art:日本のメディアアートとこれから」をテーマにトークセッションを実施しました。最終日にも関わらず多くの方が来場し、会場は立ち見も出るほどの盛況ぶりでした。トークでは、日本のメディアアートはこの50年いかに日本の社会と関わってきたか、どのような変遷を経て現在に至っているのか、またアルスエレクトロニカからみた日本のアーティストたちはどのように国際的な評価を受けてきたか、日本におけるメディアアートの歴史とこれからの社会における役割について議論しました。
関口敦仁氏のコメント
第2回未来の学校祭において、2019年9月にアルスエレクトロニカフェスティバルで展示した、Japanese Media Art Timeline Infographics Project を拡大して再展示する機会を得ました。1950年から2020年現在までの70年間を横10メートルの中に収めた訳ですが、その内容とそれから得られた分析を元にプレゼンテーションを行いました。散漫な活動を集約するのは大変でしたが、大きく6つ程度の時代が見えてきたこともあり、それらの内容について、出来るだけわかりやすく紹介はできたのかなと思います。それを見た、落合氏、草原氏、小川氏から率直な感想や、経験を語ってもらいました。落合氏が研究者というよりアーティストであることを活動のメインに考えている点は新鮮な出来事でした。
草原真知子氏のコメント
参加予定だったクリスタ・ソムラーが急遽来日できなくなったのが残念でしたが、関口敦仁氏による日本のメディアアートの歴史の解説の後、落合陽一氏、筆者とモデレーターの小川絵美子氏が加わって80年代から現在までの状況が多角的に語られました。重要な作品の映像はすぐに画面に映し出され、参加者が熱心にメモを取っていました。最後に落合氏が提起した作品の保存の問題は今後も検討を続けねばならない課題でしょう。
落合陽一氏のコメント
小川氏と関口氏と草原氏との語らいの中から、日本の戦後の産業発展の文脈、ナショナルイベント、その後に続くインタラクティブアートの系譜を再確認できた。身体性とメディア装置、物質性、アニメ、ゲーム、ミニマリズム、伝統、様々なキーワードによって彩られる70年の歴史は瑞々しく、メディア芸術を育む風土としての日本の環境を再認識した。それらの議論は自分にとってメディアアートの保存やマーケットの問題を考えていく礎となった。